photo essay

VOL.30 雪色の地面
2011年3月

 車が残した轍の跡が、みるみる埋まっていく。降り続く雪は、弱まる気配はない、むしろその降り方は強くなり、谷を越えた向こう側の山肌を雪のベールで隠してしまうほどだ。このまま標高の高い、山の尾根に沿うように走る林道に、長く留まるのは得策とは言えないようだ。

 撮影はそろそろ潮時、さて、どうしたものかと考えていると藪の中から鳥が現れた。先程から林道脇の藪を出たり入ったりしているミヤマホオジロの牝で、道路脇の小さな雪山の上にちょこんと乗り、すました顔で雪面を見つめている。視線の先は、雪が深く積もり、何もないのに、ミヤマホオジロは暫くその雪面を見つめていた。もしかしたら、雪が積る前は、彼女の好物の美味しいものが落ちていたのかもしれない。「雪の中の野鳥」は、私にとって大好きな撮影テーマの一つ、だから雪は大歓迎なのだが、ミヤマホオジロにしてみれば、ただでさえ寒く厳しい冬なのに、彼らの糧を隠してしまう雪は有難いものではないだろう。早く雪など溶けてしまえと思っているのかもしれない。

 ミヤマホオジロが見つめた、雪が降り積もる地面の下では、次の季節の準備がちゃんと進んでいる。あとほんの少し我慢すれば、暖かく過ごしやすい季節が訪れるだろう。だからもう少しだけ辛抱して、なんとか無事にこの季節を乗り越えてほしいなぁ。そして、またこの森に来てくれたなら、とっても嬉しいのだけれど。そんなことを思いながら、雪の上のミヤマホオジロを一瞥し、さらに降雪が激しくなった峠を後にした。(平成23年3月記)

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